AntiquesAMUSE

/特集記事・欧州買い付け日記

2010年6月18日!


6月4日に日本を発ち、10日間の日程でロンドンの買付けを終えて、
中部空港に降り立った。
今回もほんとうにいろんな事があった。それだけに達成感はひとしお…。
よく頑張った。
腕が抜けるほどの荷物と、疲れ果てた身体を引きずって
中部空港からのバスを降りると、
母がバス停で嬉しそうに笑って待っていてくれた。
「ただいま!」疲れがふっと和らいだ。
思えば、今年になってから、2か月に一回の割合で、
ヨーロッパに買付けに行っている。
偶数月に北で開催される大きなアンティークフェアに、
ここのところ皆勤賞で出掛けている。
毎回、買付けの度に、何か必ず事件が起きる。
今回の大ハプニングは、このフェアでのこと。
朝6時ちょうどの電車で北に向かう。
一時間半も電車に乗って行くので、多少,遠足気分。
一緒に向かうディーラー達との久しぶりのおしゃべりも楽しい。
たくさんの品物を持って帰りたいので、
日本からの旅行用の大きなスーツケースを空にして持って行く。
帰りはいつも、この鞄にぎっしりの戦利品に嬉しい悲鳴をあげながら、
重い重いと,ロンドンに帰る。
駅に着くと大きな乗り合いタクシーが待っていた。
8人乗りにギリギリ8人目で乗せてもらえた。
誰よりも早く会場に入り、品物を見たい想いは皆んな一緒。
いやでも、車内のムードは高まる。
フェアのゲートに到着するやいなや、タクシー代を払うと、
我先にと誰もが走り出した。
負けていられないと、私も、友人の後に続いて走った。
体育会系は、こういうのにはムキになる。
5分ほど走ったところで違和感に気付く。何かいつもと違う気がする。
あーーーーーっ!鞄が無い!
何てこと!タクシーの中に忘れてしまった。
しまった!あんな大きな物、忘れるなんてあり得ない!
戻ってみたが、もちろんタクシーの影も形も無い…。
どうしよう…。悔やんでみても始まらない。
でも、タクシー会社の名前もわからないし、探しようがない。
そして今は、何よりも買付けが使命!
深く深呼吸をして、切り替えを図る。
「いざとなったら、鞄代わりに段ボールで日本に帰ればいいわ。」
最悪の場合を想定して腹をくくる。、出てくれば儲けもの。
歳を重ねる度に上手くなる開き直りの術。
鞄の件は一時、棚に上げた。
忘れようと努力しているうちに本当に忘れられるようになり、。
我ながら驚く。 鞄が無いから大きな物は買うことが出来ず、
目が自然に小さな物を追っている。買付けにリズムが生まれる。
何かの拍子に鞄の事がふっと頭をかすめるが、慌てて打ち消す。
今は集中あるのみ!買わなくっちゃ!
夢中になっているうちに、あっという間に11時を回った。
さすがにちょっと疲れた。ここらで一休み。
英国在住の友人にもらった手作りのおにぎりを食べてほっとしたら、
やっと、鞄の行方に頭が戻った。
所属会社が分からないのなら、まずは、あのタクシーを捕まえなければ…。
あんな大きなタクシーが駅から人を乗せてくるのは、
このフェアーを目指して来るくらいなもの。
駅から来た人は、どれかのゲートでタクシーを降りる。
ゲートにはそれぞれ2人づつ、監視員がついている。
メインになる2つのゲートの監視員に、事情を説明して、
私の携帯電話の番号を書いた紙を渡した。
話すと、誰もが同情してくれる。思えばすべて、私のうっかりが原因…。
申し訳なく思う。タクシーは大きくて八人乗り、運転手は、
背が高くてスリム、髪がグレーでメガネを掛けている。
もし、ここにその大きなタクシーがやってきたら、
私にきっと電話をくださいね。ようく頼んだ。
フェアの本部にも足を運んだ、タクシー会社が、
忘れ物の鞄の件で連絡してきたら、私に連絡してほしいと…。
又、ここでも同情の嵐。ごめんなさい…。
考え付く手は打った。あとは電話が掛かってくるのを待つ。
一旦考え始めたら、鞄の事が気になり、前ほど買付けに集中出来なくなった。
目が滑ってしまう。
帰りのバスの時間が近づいてくるのに、まだ、どこからも電話は無い…。
祈るような思いで、買付けに戻る。 でも、最後に一縷の望みがあった。
以前いつだったか、あの大きなタクシーが、フェアからの帰り客を狙って、
午後3時くらいに、バス乗り場のあるゲートに来ていたのを見たことがある。
今日も来てくれさえすれば…。
結局、小さな物から集中力が薄れ、気付けば、
ステンドグラスにしんちゅう枠のファイアースクリーン、
おまけに最後には絨毯まで買って、肩にも両手にも、恐ろしく荷物を抱えていた。
私にとっては、珍しい事ではないけれど、
さすがに遥かロンドンまでの帰路を思うと後悔が走る。
電話はまだ無い。
少し早めにバス乗り場に向かう。やっぱり、あのタクシーの姿は無い…。
友人たちもまだ来ていない。ふうっ。
3台のタクシーが待っているが、あのタクシーじゃ無い。
道を挟んだ農場で、羊がのんびり群れている…。

0615


のどかな時間…。しばらくポカンと羊を眺めていた。
あっ!突然、弾けるように思い立った。
このタクシーの人たち、同業だもの、あの運転手を知らないかしら? 
あのタクシーは、大きくて特殊だし…。
慌てて、タクシーに近寄った。
トントントン、窓を叩いて1台目のドライバーに尋ねる。
訝しげに、私の顔を見る。
知らないのかな?もう一度、鞄を置き忘れた事情を話す。
事情は分かったが、どうしても心当たりがないようで、
隣のタクシーに聞きに行ってくれた。
その時ちょうど、友人たちがバスに乗るため、集まってきた。
「鞄、見つかった?」皆、心配してくれている。
まだ、見つからないのよ。それで、この運転手さんにあのタクシーの事、
知らないかと思って、聞いてみたのと言ったのと同時に、
2代目のタクシー運転手が、近寄ってきた。
そのドライバーは、背が高くてメガネかけてる奴だろ?髪がグレーで…。
それならビーカンタクシーだろうよ」と言ってくれた。
聞いたものの、期待はしていなかっただけに驚いてしまった。
えーっ!夢のように思えた。うそっ、何てこと!手掛かりが見つかった!
皆の眼が輝いた。
思わず、その運転手にビーカンタクシーの電話番号を聞いてしまった。
商売仇だもの、知るはずもなく首を横に振る。
それならば、電話案内に掛けようと言ったその時、
バスの運転手が、乗るのか乗らないのか、私たちに確認にやってきた。
私たちのやり取りを小耳に挟んだのか、
ビーカンタクシーなら電話番号分かるよと言って、アイホンをとりだし、
画面にタッチして電話を掛けてくれた。
結局、私のスーツケースは、朝のタクシードライバーが気付いて、
電車の駅からほど近い、
ポリスステーションに届けてくれて警察に保管されているとの事。
やっと見つかった!良かった!もう駄目だと思ってた。突然、力が抜けた。
バスの運転手は、とても親切な人だった。今から駅に向かう途中で、
ポリスステーションの前で停まってあげるからそこで降りて鞄を受け取りなさい。
そこから駅までは、大した距離じゃないから、歩いて行けるから。
感激で胸がいっぱいになった。何度も何度もお礼を言うと、
彼は、照れたようにウインクをした。
ポリスステーションの前で降ろしてもらうと、
バスの乗客が皆、窓からこちらを見てる。
事情が分からないだけに、皆の想像は膨らんでるにちがいない。
ステンドのスクリーンを片手に、絨毯を背負い、
すごい荷物を持ってる私に友人がつきあって一緒に降りてくれた。
持つべきものは友達。ほんとうにありがとう!感謝!
警察に入ると、あった、あった!ガラス張りのカウンターの向こうに、
私の鞄は保管されていた。
婦警さんが何か用事?と聞いてくれた。鞄を指さすと、
ああ、あなたなのね!と、笑顔で大きく頷いた。
パスポートを出して、サインして鞄を受け取った。
8時間ぶりの対面。ひどく嬉しかった!

0615


正直な話、とんでもなく高価な超軽量スーツケース。
今年の4月に前のが壊れてしまい、買いに行ったら一目惚れ、
価格を見て諦めようと思ったけど、どうしても忘れられずに、
清水の舞台から飛び降りる想いで買った鞄だった。
どうぞ戻ってきますようにと祈る半面、無事に手元に戻るとは思っていなかった。
それも今日のうちに…。
早速、持ってる荷物を詰めようと、
警察の入り口で鞄を広げ、肩に掛けてた荷物を詰め込み始めたら、
婦警さんが、テープを持って、ガラスの向こうから来てくれた。
お言葉に甘えて、絨毯をきりりと、テープで締め上げた。
突然、ガチャンと、目の前で大きな音がした。友人が私を待ってる間に、
荷物を持ちかえようとして手が滑ったらしい。
瀬戸物の壊れる音。全壊かどうかは分からないが、壊滅的な被害の音。
せっかく親切に、私に付き合ってくれたのに、申し訳ない想いでいっぱいになる。
「ああ、割れてる…。」友人が袋を覗いて、小さく呟いた。
駅までの道は、思ったよりも遠かった。
ステンドグラスのスクリーンと絨毯とスーツケースの3つを持っての移動は、
想像を絶する。私の買付けでの鉄則、心に決めている信条がある。
どんなに買付けてもいいが、人様の手を煩わせない範囲で買い付ける事!
偉そうに掲げていたのに、脆くも崩れた。
せっかく買い付けた商品が割れてしまって傷心の友人に、
スーツケースを持ってもらった。もう、言葉も無い…。ほんとに、ごめんなさい。
ロンドンに戻る電車の中、スーツケースが戻ってきた嬉しさと、
友人の陶器が割れた事への申し訳なさが、
入り混じって複雑な思いでの帰路になった。
お礼とお詫びに、ホテルに戻って荷物を置いて、食事に誘った。
新しく出来たグルメバーガーという店。4月に来た時には無かった気がする。
食べる事が大好きな私達。最初は無難なビーフのハンバーガーに決めたものの、
一人分だけ、怖いもの見たさでバッファローのハンバーガーを注文してみた。
牛には変わりないが、やっぱり普通のほうがおいしかった。
何だかバッファローの姿を想像して、複雑な思いが残った。
部屋に戻って、戦利品の山に埋もれながら眠りにつく。
これだけの品、パッキングするの大変だろうな…。
でも、今日は、鞄のハプニングで大騒ぎ、集中出来なかったもの…。
やっぱり明日もフェアに行ってみようかな。
懲りない性格である。
現地で相当に無理をするせいか、帰ってくると、
一週間以上は体調も気分も優れない。
ギリギリ発つ直前までパッキングに追われ、
時間と闘いながら宅急便屋に大きな箱と走り込む。
空港へ向かうタクシーの中、鞄を開けて税関書類を書き、
申告用の商品を引きずり出す。
頭の中では、空港でのシュミレーションが行われている。
最後の電話もしなくっちゃ。タクシーの中でも、パッキングは続いている。
わっ重い!これは手荷物、カッターはダメ!スーツケースへ。
空港に着いてからが、大勝負。帰りの荷物の重量の問題。
エコノミーの25キロがクリア出来るかが大問題…。
JALのカウンターで荷物の重量を量る。恐る恐る数字を覗く。
大丈夫!許容重量をクリアした!
まだ1キロ余裕がある。調子に乗って、
手荷物の中からお土産の魚の勲製を出し預ける荷物に入れた。
0.5キロオーバー。渋い顔をされる。
「これでも、規定の20キロより5キロおまけしてるんですよ。」
言いにくそうに、ちょっとだけチクリと言われた。
でも、入れてくれた。
飛行機に乗り込む時は、もうほとんど気力だけ。精も根も尽き果てている。
後は飛行機で爆睡するだけ。いつも、気付くと成田到着の2時間前。
でも今度の旅は、圧倒的に、最後がいつもと違っていた…。
ロンドンからの飛行機は夜7時。JALの座席は、リクエストで決まっている。
私の席は3列くっついた中央ブロックの右通路側。
もちろん左通路側は埋まっている。
真中の席に誰かが来たら、ぎゅうぎゅう詰めで奈落の底…。
この前は、百キロ級の外人が座って閉口した。気の毒やら、窮屈やら…。
飛行機が飛び立つまで、祈るように待つ。どうぞ、隣が、空席でありますように…
シートベルトを締め、離陸態勢に入る。うーん。まだ誰も来ないけど…。
大丈夫かな…。大丈夫みたい。やっと隣の空席が確定した。
あまりの嬉しさに、思わず空席を挟んだ左端の青年に声を掛けてしまった。
「よかったわね。お隣に誰も来なくって!半分だけ、バック置いていいかしら?」
ロンドン在住の友人の友人が、数日前に日本に帰ったのだが、
財布一式、免許証まで忘れていった。
日本に持って帰ってくれないかと頼まれた。
快く引き受けたら五十五万円も入っているとの事、持ち慣れない大金の現金輸送。
どうしても、バックを目の届くところに置いておきたかった。
「どうぞどうぞ!」爽やかで人なつっこそうな笑顔から白い歯がこぼれた。
これをきっかけに会話が始まった。
話しても大丈夫ですか?疲れているのでは?と気遣ってくれる。
どういうわけか、眠気と疲れは、少しも感じなくなっていた。
この20年間、帰りの飛行機で、こんな風に隣の人と話した事があっただろうか…?
たいていの人が、すぐに眠りに落ちるか、
ヘッドホンを付けて、自分の世界に閉じこもる。
12時間も隣り合っても、一言も交わさない事がほとんど…。
袖すりあうも、という縁には無縁だった。
きちんと目を見て話し、きれいな日本語を使う。
育ちの良さと聡明さがはっきり感じられる。
聞けば、イギリスの大学の医学部に籍を置くもうすぐ20歳の青年。
幼少期からヨーロッパで育ち夏休みで、関東圏の家へ里帰り途中だとか…。
こんな青年が、日本の未来を支えてくれると思うと、先に希望が持てる気がする。
日本も捨てたものじゃない。嬉しくなった。
何しろ話題が尽きない。きちんと自分の意見を持っている。
若いのに、話に奥行きがあり、そのくせ媚びない。
久しぶりにいろんな事を夢中で喋った。20歳とは思えない。
疲れも眠気も、どこかに飛んで行ってしまった。
話している途中に、クルーが来てJALのアンケートを渡された。
記入をし始めた途端に睡魔に襲われ、眠りに落ちた。
話しているときは、少しも眠くなかったのに…。
まあ、睡眠不足だったのは確かだけれど…。
3時間くらいは、眠ったかもしれない。
目覚めて、朝の挨拶を交わすと、又、自然に会話が始まっていた。
その後も、次から次へと話題は尽きず、
エンターテイメント用のヘッドホンを一度もビニールから出さなかった。
こんなに楽しく、きちんと誰かと会話を交わした飛行機の旅は、初めてだった。
飛行機の中で時間も飛んだ…。
そのまっすぐな目で、未来を見極めて…。又、どこかできっと会える気がする。
楽しみでならない。こうして、私の買付けの旅は、終りを迎えた。
さあ、6月26日からのフェアの為に、フル稼働が始まる。
旅の成果を、店頭にて、是非ご覧ください。

0615

瞬く間に年が改まってしまった。2011年の幕開け…。

赤い琥珀編


いったい、いつなら日本にいるの?と言われるほど、
昨年はほんとによく買付けに飛んだ。
結局、イギリスの偶数月の北のフェアは、合計6回!皆勤賞達成!。
加えて、春と秋にヨーロッパ大陸に2回、
昨年末は、新たに、かつてヨーロッパだったアジアにも1度、飛んでいる。
狭くて、苦痛なだけだった飛行機の中も、今はけっこう大切な時間に変わった。
考えてみれば、12時間の空の上は、地上と隔絶された特別な時間。
活かすも殺すも、自分次第。
昨年は、自分でもびっくりするほど、いろいろな出来事に振り回された。
渡航回数が増えれば、ハプニングの確率が増えるのは、
しかたないのかもしれないが、
このごろ私の渡航の度に、必ずと言っていいほど、いろんな事件が巻き起こる。
今回のハプニングは、超ド級。
秋も深まった11月、ヨーロッパ大陸の、とある小さな町のアンティークフェアに
友人と3人で、連れだって、出掛けた時に、その事件は起きた。
高額な品は無いが、ちょっと毛色の変わった小物が手に入ったりして、
採算を考えたら全く合わないが、ついでに立ち寄るなら楽しいフェア。
円高も手伝って、快調に買い進め、気づけば、またまた、
とんでもない量を買っている。
持ち切れない量に、そろそろ限界!、午後4時くらいに切り上げることにした。
預けてあった商品を集めて回り、ますます膨れ上がる私の荷物。
わっ、そうだった。ステンドグラスまで買ってたんだ…。
無理やりトランクに押し込み、友人たちと待ち合わせ、駅に向かう。
一つにまとめたものの、ステンドの窓まで入ったトランクはやっぱり重い。
トランクの車輪が、キイキイ悲鳴をあげている。
弾みをつけないと車輪が動かない。
もうちょっと、もうちょっとと、抜けそうな手を騙し騙して、駅に近づく。
駅は、目の前なのに、いつもながら帰りの距離は、確実に遠い。
何だろう?駅の回りに、おびただしい人の群れ。お祭りでもあるのかしら?
いや?楽しい事ではない。直感で分かる。人の顔がみんな険しい。
悪い予感が、身体中を駆け巡る。
とりあえず、不安な思いに蓋をして、駅の構内に上がるエスカレーターに向かった
何てこと…!入口に、事件現場みたいに、テープが張り巡らせてある。。
駅員らしい人が、通せんぼしている。これって、入れないって事?
3人で顔を見合わせた。対向の下りのエスカレーターから、
人が続々と降りてくる。
ますます膨れ上がる人の群れ… ねえ、ねえ、ねえ。
パフュームじゃないけど いったい、何が起きてるの?
とりあえず、その辺の人に聞くが、英語が話せる人に 行きあたらない。
英語圏じゃ無い土地では、すべてが想像に頼る事になる。
とにかく、よくわからないが、非常事態である事はまちがいない。
不安はつのるが、荷物が重く、動きたくても動けない。
英語の堪能な友人が、事情を聴きに、英語の話せる人を探しに行ってくれた。
「駅で火災が起きたらしい。復旧に時間が掛かるかも?」
慌てて戻ってきた友人の口から、聞きたくない事実が、飛び出してきた。
やっぱりね…。悪い予感は的中した。
然と立ち尽くす3人…。一人は、今夜の飛行機で、ロンドンに飛ぶ予定だという。
私のホテルは、列車で40分弱の国内の大きな都市に取っている。
最悪でも地上移動なので、タクシーで帰ればいいが、いったい幾ら掛かるのだろう
こんな非常事態なのに、貧乏性が顔を出す。
そうこうしてるうちに、駅前に人も車も溢れ出して、
たいへんな渋滞になってしまった。
バスが代行していると言うが、どこから出ているのかも、
どこ行きに乗ればいいのかも 全く分からない。
それに加えて大問題。私のトランクは大きくて重い…。
しかし、逆境になると、ここぞとばかり燃える体育会系。
ここを抜ける何かいい方法は無いかと考える。
そうだ!ホテル!うまい具合に旅行用トランクを持っている私。
駅前の立派なホテルに入る。ここで、タクシーを呼んでもらおう。
フロントは、空き室を求める人でごった返している。
今朝、チェックアウトして、荷物を預けていたような顔をした。
客を装えば、対応も違うだろう。ウソをつくのではない。
向こうが、そう思ってくれればいいのだから…。
タクシーを呼んでもらえるか、友人がフロントに聞きに行った。
フロントの女性がチラッと、こちらを見た。トランクを強調する私。
今、タクシーも混んでいて、駅前が渋滞してるし、時間は約束出来ないが、
空港に向かうというなら、一台、何とか回してくれるとの事…。
ほんとに来るかどうか、不安は残るが、望みの光は、かすかに見えた。
道に敷かれたホテルのレッドカーペットの先端に3人で陣取り、
タクシーが来た時の優先権を、周りに態度で示した。
他に誰も並んではいないのだが…。


1時間が過ぎた。待てど暮らせど、タクシーは来ない。
だんだん口数も減り、疲れが肩にのしかかってくる。
おまけに時々、小さな雨粒が、顔に当たり始めた。
時間が経つにつれ、状況は悪くなる一方…。
冬のヨーロッパの日没は早い。あたりは、すっかり暗くなってしまった。
駅の入り口のテープは、相変わらず、剥がされる気配もなく、
列車が動いている気配がない。ごった返す人の顔は、誰も暗い…。
最悪、ここで野宿ということ?。こんなに寒いのに???
想像は、寒さと暗さが増す度に、悪い方へと転がっていく。
ふいに、現実が、その姿をさらけ出し、危機感に襲われた。
何とかなるという楽天的な思いは、かなり、希薄になってきた。
タクシーが来ないのなら、列車が動き始めない限り、ここに留まる以外はない。
苦しいときの神頼み。神様、仏様、キリストさま、お父さん、
拝める人が勢ぞろいした。
それから、何分経っただろうか…。
すっかり、あきらめムードで無口になっていた私達。
皆、それぞれに、この先の自分の今夜を、想像していに違いない。
突然、渋滞の中、降って湧いたように、一台の白い車が、
ホテルのロータリーに入ってきた。
目を凝らして見てみたが、タクシーのサインが無い。
誰かを送ってきたのだろうか? フルに4人が乗っている。
何と、レッドカーペットに横付けして停まった。
どこをどう見ても、やっぱりタクシーとは思えない。一般車だろうか?
太った髭の紳士が助手席から、降りて来た。きちんとした身なり。
私の友人の一人に話しかけた。
何を話しているんだろう?と思った矢先に、友人が振り向きざまに叫んだ。
「この車、空港に行ってくれるって!」
弾かれたようるに、荷物をトランクに放り込み、
目にも止まらぬスピードで、まだ降り切っていない後部座席に、
反対側から乗り込んだ。
こんな時、体育会系は素早いのだ。友人が続いて座る。
もう、てこでも動かないぞと心に決める。
タクシーだと認識した周りの何人かが、駆け寄ってきて窓ガラスを叩いたが、
運転手が何か説明していた。一向に、諦める気配のない女性が最後まで、
窓ガラスに張り付いていたが、結局、振りほどいて発車した。
信じられない、あまりに突然の展開に、頭を整理するのに時間は掛かったが、
だんだんと、喜びが込み上げてきた。
タクシーに乗れて、座席に座れた安堵感で涙が出た。
良かった!ホテルに帰れる…。友人が、運転手に、飛行機の時間を告げる。
ああ、そうだった!まだ、飛行機の時間に間に合うかもしれない。
可能性はある。 でも、この渋滞。相当、急がないと…。時間の猶予は全く無い。
間に合うかどうかと、私達の心配をよそに、運転手は、力強くOKと言った。
そこからは、身の毛もよだつ、カーレースが始まるとは、誰も想像していなかっ
運転手は、トルコ人だった。トルコ人は親日感情が厚いと聞く。
ホテルのロータリーから、一般道に出る第一の難関。渋滞の列は、どの国も同じ。
誰もが我先にと、譲らないオーラが出ていて、割り込めない。やっぱりね…。
だって、この渋滞じゃ仕方無い…。あきらめかけた私は、自分の目を疑った!
運転手は、突然、片輪を歩道に乗り上げた。
車は傾いたまま、渋滞の列の脇をすり抜けていく。
えーーーーーー!次に、信号で停まっている車の前に、
ほんの少しのスペースを発見!
歩道から降りた車輪を、何回も切り返す!
無理でしょ!狭すぎる!えっ?えっ、横切った?!
唯一、空いているのはバスレーン!もちろん彼の目指すのはそこ!
走ってるし、バスレーン!
次は何?え?それって、反対車線でしょ?
ええっ!ダメダメっ!それだけは、ダメーーー!
日本語の悲鳴など、意味が分かるわけもなく、ガンガンと車を進める運転手。
そのドライビングテクニックは、素晴らしく、紙一重の隙間も見逃さない。
入れると思ったら、どんな事をしても入っていく。車の損傷は、もちろん無い。
そこから先も、目を開けていられないほど、信じられない光景が続いた。
手も足も突っ張ったまま、凍りつく私達を尻目に、
ついに駅前の渋滞をすり抜けた。
その次、私達を襲ったのは、スピードの恐怖、海外のメーターだったから、
よく分からなかったが日本のスピード表記なら、気を失っていたかもしれない。
慌てて、後部座席のシートベルトを締めたことを覚えている。
さすがに助手席の友人が、大丈夫かと聞くと、
誰か、妊娠中だということにしろという。
一番若い私は、何か、お腹に詰められる物を探してバタバタした。
一瞬たりとも、力を抜けず、硬直したままの私達を乗せて、
車は、空港に滑り込んだ。
間に合った!すごい!ロンドンに帰る友人が、ありがとうと首に飛びついてきた。
普通より、たくさんのチップを渡したが、惜しいとは、全く思わなかった。
運転手は、思ったより額が大きかったのか、満面の笑顔で、恐縮していた。
あの街に溢れていた人々は、いったいどうなったのだろうか?
友人と興奮して話しながら、ホテルに戻った。
無事にベットに眠れた事に、心から感謝した。
次の朝、まだ電車は動いておらず、バスを乗り継いで会場に向かった。
会場に入ると、知り合いの日本人が飛んできた。
「あなた達、昨日、大変だったわね!駅で寝たんでしょう?」
新聞によると、駅のコンピュータールームから出火して、
列車のコントロールが不能になり 駅付近の交通は、完全に遮断されたとの事。
500台の簡易ベッドが駅のセンタービルに 運び込まれ、
2000人が、駅で夜を過ごしたとの事だった。
その女性が、私の首に下がっている赤い琥珀のペンダントを見つめ、
しみじみと言った。
「このペンダントがあなたを守ったのよ赤い石は災害から人を守ってくれるのよ」
ところで、それは何の石かと聞いた。
イギリスのヴィクトリア時代の赤い琥珀で、
古いロングのネックレスから大きい粒を取って、
友人がペンダントに仕立てたものだと言うと、 同じものを注文してくれた。
日本に帰ったら、同じものを送る約束をして、別れた。
今まで、何の気なしにしていた真っ赤な琥珀が、
急に大切なお守りのような気がして手放せなくなった。
ほんとうに、このペンダントが、私を守ってくれたような気がした。
これが、今年最後のトラブルかと思いきや、
翌日、私の友人が、電車の中にパスポートと、全財産入りのバッグを置き忘れ、
突然、どこのだれかも証明出来ない身分になった。
奇跡的に、お金は抜かれたものの、
クレジットカードも、パスポートもずっと先の駅で 見つかった。
これも、この琥珀のお陰かな?
心なしか、赤い琥珀が、その赤さを増した気がした。 渡英2011年2月7日~14日迄

お食事中、失礼致します。編


節分が過ぎ、すべてが低迷するという三年間の大殺界とやらを抜けて、
私の中では、いろんな意味で、年が改まった。
生まれて始めて、豆まき祈祷をしてもらい、身も心も改まった感じがする。
一月末で今までの店を閉じ、
二月末には新しい店をオープンさせる計画を立てたものの、
アンティーク屋の引越しは、思ったよりもたいへん…。
何だか分からない物が、店の奥底まで、たい積している…。
掘っても掘っても、何かが出てくる。遅々として進まない…
新しい店用の商品の買い付けに加え、25周年フェアの準備と,
渡英するしかなく、するなら今しかない!
気掛かりをすべて棚に上げて、飛行機に飛び乗った。
今回は初めて、スタッフの石川を同行させる。
25周年に向けて集めた商品を、コンテナに詰める作業が最終の段階を迎えている。
現地でする事は山のようにある。
中部国際空港で、朝7:10に、石川と待ち合わせる。
荷造り用のダンボールに
プチプチを何十巻きにしたスーツケースより大きな荷物の異様さは、
人の創造力を掻き立てる。
初めて、人が持っているところを見てつくづく感じた。
JALのカウンターに進む。どうやら、今日は、相当混んでいるらしい。
昨年、頑張って、何度も買い付けに飛んだ甲斐あって、
年明け早々、サファイアなるカードを送って頂いた。
年間のフライトのポイントが一定を越すとこのカードがもらえるらしい。
水戸黄門じゃないけれど、このカードの威力は、凄い!
荷物を運ぶ事を業にしているアンティーク屋にとって、
エコノミークラスなのに、荷物の許容量が倍になるのは、
喉から手が出る程、欲しい特典!おまけに、チェックインも、飛行機搭乗にも、
優先権が発生する。
ただ、いくら頑張っても、エコノミー席が、
プレミアエコノミーになったりはしないのが、 どこまでも残念ではある。
飛行機は、卒業旅行の時期と重なり、ほぼ満席。
飛行機の中が修学旅行のバスと、化している。
私も石川も通路側をリクエストしている。
通路を挟んでの端っこの席同士が理想だが、手配が遅くて席が離れてしまった。
私の隣も、石川の隣も、若い女性が2人で、免税品のカタログを見ながら、
話しに花が咲いている。
元気モリモリで、機内が若やいでいる。
離陸の時、ふわっとしたら、黄色い悲鳴が上がった。
私にも、こんな時があったな…。と思いながらも、ちょっと耐え切れず、
イヤホンを装着!自分の世界に入り込む。
ここ数年、忙しくて、映画を見に行く時間が取れないが、
話題の新作は、この13センチ×10センチの画面で、ほぼ制覇している。
今日は、REDを見る事にした。モーガン、フリーマンはやっぱり素敵!
ヘレン、ミレンは、この前、エリザベス女王で、出ていたのに、
今回は、白いドレスで、マシンガンを打ちまくっている。
ブルース、ウイルスは、当たり前の役柄だが、なかなか面白かった。
痛快アクションコメディーだ。 映画って、ほんとに面白い。
機内食の後、ハーゲンダッツのアイスが出た。初めてだ。JALも頑張っている。
アイスが硬くて、スプーンが刺さらず苦労していると、
機長のアナウンスが入った。
「お食事中、失礼致します。当機は、たった今、
エンジンに付着した氷を吹き飛ばす装置に、故障が見つかりました。
このまま飛行を続けますと、シベリア上空で、飛行が出来なくなる為、
成田空港に引き返す事になりました。お急ぎの所、申し訳ありません。」
えーーーーーーっ!誰もが、顔を見合わせた。
突然、ハーゲンダッツの味が、ぶっ飛んだ。
帰るって?? えーーっ! 帰るう?ここまで、来たのにぃ?
さすがにびっくりしたが、だからって他に道は無いし…。
生まれて初めて、飛行機が引き返す事を、経験した。
行く時は、あんなに長く飛んだ気がしたが、引き返しは早かった!
あっという間に、成田空港に到着した。
まさに、三歩進んで二歩下がる。今回の旅、先が思いやられる。

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現地ライヴ写真です。

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相変わらずイギリスの料理は・・・・・・・・

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忙しすぎてもう食べることしか・・・・・・・・

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